さよならが言えなくて。
さよならが言えなくて。37
今頃隆也と智也は何してるのかな?
二人でいてもきっと隆也は隆也のまんまで、智也が一人でしゃべってそうだ。でも隆也は智也の話をうっとおしそうにしながらもちゃんと聞いてる。話しかけるなとかいいながらも結局智也に付き合う。
もしかしたら二人でDVDとか見てるかも。二人とも趣味は違うのにお互いが選んだDVDなら文句を言いながらでも見てそうだ。
隆也と智也の関係を羨ましく思う。僕とは数ヶ月の付き合いだけど、二人には何年もの付き合いがある。僕とでは紡げない空気があの二人の間にはあって、その中に入れる人はいない。
「で、これ又あいつが持たせてくれたの?ここちょっと有名なんだよ。食べて見たかったんだよね。まあ気が利くっていっとこうかな」
「有紀。またそんな風に言う。それにあいつなんて…。智也の友達でもあるんだよ」
「何か今日智也さん泊まりだって?」
「そうだよ。よく知ってるね」
「さっきメールが来た」
「有紀、智也とよくメールしてるよね」
「樹が心配だからね。智也さんに情報もらってんの。二人でケーキ食べに行ったりもしたよ。智也さんおいしいケーキの店よく知ってるんだよね」
「いつの間に…。智也そんな事言ってなかった」
「樹に言わないでってお願いしたもん。智也さんにケーキ食べに連れて言ってもらうなんて言ったら樹絶対にダメだって言うでしょ」
「当たり前でしょう。智也が気をつかうじゃないか」
「誘って来たのは智也さんだよ」
「それでもついて行ってのは有紀でしょう。普通は断るんじゃないの?」
「智也さんだよ。断るのもったいないじゃない」
「有紀…。」
大きな口を開けてケーキをほおばる有紀にもう少し女の子らしくできないのかとため息が零れる。僕がバイトの時は有紀が夕食を作ってくれてるんだから文句も言えず、残ったケーキは冷蔵庫に入れて敦兄にも食べてもらうように言ってから自分の部屋に戻った。
隆也と智也一緒のベッドで寝るって言ってたな。確かに隆也のベッドはキングサイズだから男2人で寝ても余るぐらいだ。変に意識してしまうのは僕が隆也を好きなせいだからだ。
もし僕が隆也の家に泊まるとしても同じベッドで寝るのは無理だな。きっと緊張してドキドキして眠れないもの。もし隆也の身体に触れてしまったら意識しちゃって身体を動かす事も出来なくなるだろう。熱が出てしまうかもしれない。そもそも家族以外の人と同じ布団で寝た事なんてないのだ。敦兄となら平気で寝られるだろうけど、隆也とは無理だ。
想像しただけでぶわっと顔が熱くなり、そんなバカな事を考えている自分にバカじゃないかと突っ込む。恋愛ってほんとにバカになっちゃうもんなんだな。
初めての恋はバカな事を考えてばっかりだと思う。それでも好きな人を思う夜は切なくも甘いような気持ちになる。
「本当に隆也の事好きなんだ」
隆也に言う勇気もない。告白されても隆也に迷惑をかけてしまうだけだからと言い訳してるけど、本当には告白する勇気がないんだ。気持ち悪がられるだけだから。嫌われるのは嫌だ。怖い。だから言わない。言えない。
* * *
「おはよう樹ちゃん。昨日は美味しい料理ありがとうね」
「おはよう。昨日は楽しかったね。あれ?隆也の家に泊まって一緒に来たんじゃないの?」
「んー。何か隆也、女の子に呼ばれてどっか行っちゃった」
「そうなんだ…。相変わらずモテるね」
「ふふっ。樹ちゃんヤキモチ?心配しなくても隆也は今は好きな女の子なんていないよ。樹ちゃんとの時間が一番長いんじゃない?」
「や、ヤキモチなんか焼かないよ。変な事言わないでくれる?」
「樹ちゃん顔真っ赤。わかりやすいよね」
「……。」
「ま、気が付いてるの俺くらいだから安心しなよ。あ、有紀ちゃんは怪しんでるから気を付けないとダメだよ。女の子ってそういう勘ってするどいからね」
「違う。違うって。何でそんな事言うかな。隆也と僕は友達なの。智也何勘違いしてるの」
ズバズバと確信をついてくる智也の言葉に翻弄されないように必死で言葉を取りつくろう。智也って妙にする胃ところがあると思ってたけど、こういうところでその鋭さを発揮しないで欲しい。恋愛にうとい僕は経験の豊富な智也をけむに巻くなんて難し過ぎる。
だんだん言いつくろう言葉がなくなって来て、このままでは僕の隆也に対する気持ちに完全に気が付かれてしまう。ここは一刻も早く智也と離れるべきだ。
「と、とにかく何を勘違いしてるのか知らないけど、変に勘ぐるのはやめてよね。有紀にもいらない事言わないでよ。じゃ僕、講義の準備があるから行くね。またね」
「あ、樹ちゃんってば……。あーあ行っちゃった。からかいすぎたかな。でも隆也を好きだってまるわかりの目をしてるのにな。わかってないのは本人と隆也だけなんじゃない?樹ちゃんにはああ言ったけど、有紀ちゃん気が付いてると思うんだけどな。認めたくないって思ってるだけでさ。しかし不器用な二人だね。見ててイライラする」
智也の大きなため息なんて知らずに僕は赤い顔で中庭を横切って歩いていた。
「あれ?今の…」
知った顔を見たような気がして少し後戻りをする。
「あ隆也だ。」
無表情の覚めた横顔を見つけて呼ぼうとしてあげかけた手と足が止まる。僕に気が付かない隆也は木の陰で女の子と向かい合っていた。
隆也の顔が女の子の顔と重なる。
(キスしてる…)
軽く啄むようなキスじゃなかった。女の子の赤い舌と隆也の舌が絡みあう。ぴちゃぴちゃと音が聞こえるような淫靡なキス。女の子は両手を隆也の首に回し身体を隆也にしなだれかけて、まるで誘うように目で誘惑している。
ここは中庭なのに。誰がいつ通るか知れないのに、平気でそんな淫らなキスをしている二人が信じられない。隆也は無表情だけど、女の子は明らかに欲情している目で隆也を見ている。
(嫌だ。こんなの見たくない。嫌)
そう思うのに足が動かない。目がそらせない。隆也の女性関係が派手なのは知っているつもりだったけど、聞くのと実際に見るのでは衝撃が全然違う。あんな風に隆也は女の子とキスするんだ。色欲にまみれたキス。
誰か話し声が近づいて来て、隆也と女の子は何もなかったかのように歩いて行く。
ふっと脱力して膝が折れそうになるのをなんとか堪えた。
「あれ?樹ちゃんどうしたの?もう教室に…って樹ちゃんどこ行くの?」
その声に隆也が振り返ってみていたのにも気が付かず、僕はそこから外へと走り出していた。どうして走ってるのかもわからない。だたそこに居たくなかった。見てしまったものを見なかった事にしたかった。
悲しいのか悔しいのかわからず、ただ心の中nモヤモヤとした黒い物が覆っていて、それを認めたくなくて唇を噛んで涙をこらえていた。
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