キミと空とネコと22

携帯に響夜と雪夜さんの着信とメールが何度も届く。

オレは一切に応じるつもりはない。

メールも読みもしていない。

心配してくれているのだろうが、今のオレにはウザイものでしかなく携帯の電源をOffにする。

電源をOffにしてしばらくするとインターホンがなる。

何でほっといてくれないのか･･･。

インターホンの音も切ってしまった。

暗くても電気はつけない。部屋にいると思われたくなかった。

いると分かれば何度も尋ねて来られそうで･･･。

電気なんて必要なかった。暗い中のほうが考えられた。これからどうするべきなのか。

熱は相変わらずあったけど、不思議と頭はクリアだった。

武蔵のご飯は暗い所ではかわいそうなので、外から見えないところの電気をつけて食べさせる。ひねくれてる？そんなこと言われなくてもわかってる。でも、そんな気分になる。ひねくれてて結構だ。

オレは食べる気がしなくて、響夜か雪夜さんが買って来たと思われるスポーツドリンクやゼリー飲料ですませ薬を飲む。二人が買ってきたものを食べるのは嫌だったが、外へ買い物にも行けず代金は後で送ればいいかと思うことにした。すごく勝手なのは分かってるけど外に出る体力も気力もなかった。

そんな毎日を数日過ごす。

武蔵を抱きながら、布団の中で過ごす日々。

おとなしくして薬を飲んでいたので、インフルエンザは治っていた。

「武蔵、引越ししようか？」

オレはこの数日でこの部屋から出て、違うところで暮らしていこうと考えていた。

ここはオレとコウキの思い出の場所ではあるけれど、コウキが帰ってくる事のない部屋。

これからもオレは生きていかなくちゃいけない。ならば今までのオレを知らない街で暮らしたほうがいいような気がする。

今のオレは傷を見ても吐き気をもよおす事もない。むしろコウキとの思い出を受け入れられるようになり、愛おしく思える。だからと言って他人の目には触れさせたくない。

でも包帯は外そう。そして包帯の変わりにブレスレットでこの傷を飾ろう。

そのブレスレットは新しい街で買おう。

相変わらず雨は振り続いていて、空は暗いけど天気になったら新しい部屋を探そう。

響夜と雪夜さんのことは親身に世話をしてくれていたのは感謝しているけど、まだ許せない気持ちもあって話すつもりはなかった。逢いたくなかった。逢ってしまったら何を言うか、何を言われるかわからず怖かった。

もとから、他人と深く関わらないと決めていたのだからこれ以上深入りしないほうがいい。

あの兄弟もオレとは関わらないほうがいい。迷惑をかけることしか出来ない気がする。

それにオレの性癖を知ったら気持ち悪いと思われるに決まっている。



オレはパソコンでいろいろな不動産会社の案内を見た。

遠すぎては引越しにお金がかかるし、コウキとの思い出の場所にも行けなくなる。そう思うと近くの物件を探してしまうオレは小さいなぁと思いながらも、ここから3つ先の駅の物件に目が止まる。

「えっと、ペット可。トイレと風呂は別。1Dkか。家賃はこんなもんだな。また7階か。」

その後も何件か物色しプリントアウトする。

引越し資金は以前コウキが毎月入れてくれていたものを貯金していたので賄う事にした。どうせ使うつもりのなかったお金。コウキから卒業するためにも使ってしまったほうがいい。

コウキは週の半分くらいここへ泊まっていたので、家賃代わりにと毎月決まった金額をくれていたのだ。いらないというオレの言葉には耳を貸さなかったので、使わずに貯金していた。

そういえば夫婦みたいに一緒に買い物したり、オレが作った食事を一緒に食べたり、弁当を持って車で遠くまで出かけたりしてたな･･･。

ずっと一人暮らしをしていたから、料理はそれとなりに出来てコウキはオレの作るものが好きだった。

特にハヤシライスと餃子とお好み焼きは他のところで食べても、オレの味を思い出すって言ってたな。一番うまいって･･･。「店出すか？」なんて言ってくれたっけ。今でもたまに思い出してくれてたらいいな。

コウキがオレから離れてしまったのにはオレにも原因があるのはわかってたんだ。認めたくなかっただけで。

オレは身体を繋げる行為があまり好きじゃなくて、それよりもキスをしたり、肌の温もりを感じてくっついていることが好きだった。安心できた。オレがおかしいのだと思う。男なのにそんなことで満足出来るなんて･･･。でも、オレは家族からも温もりをもらえなかった分、暖かな温もりに餓えていた。それをコウキに求めていた。恋人より家族を求めていたのだと思う。

でも、コウキはちゃんと男なわけで、欲求があるのは当たり前の事で、それをオレに満たされないのなら他で補うのは仕方のない事だと思う。

コウキはバイだから女の子とも出来る。将来の事を考えたら、家庭を持つ事の出来る女の子を選んだのならオレは何も言えない。オレとでは望めないし、周りからも認められない、隠しておかなければならない存在にしかオレはなれないのだから。

オレは男しか好きになれないから仕方ないけど、コウキはそうじゃない。そう思えばコウキがオレから離れて行った事も納得出来る。

コウキが悪いんじゃない。オレにも非はあるんだ。

オレはこの数日で自分の中の気持ちを整理していた。

コウキとの事も、杉野兄弟との事も。これからオレがどうして行くのかも。すごく自分本位な考え方なのかもしれない。逃げているのかもしれない。だけど誰も知らない街でオレは生まれ変わりたいと強く思ったんだ。　

決めてしまうと、今までのモヤモヤとしていた気持ちがスッキリしてきた。

「武蔵、久しぶりに一緒に風呂に入るか。ここではもう何回入れるかわかんないからな。そうだ、今度はお風呂も大きいほうがいいかな。なっ。武蔵。」

「にゃんっ!!」

元気になったオレを見て嬉しそうにシッポを振りスリスリしてくる武蔵を抱き上げる。

「武蔵はいつでも暖かいな。オレは武蔵がいれば頑張れるよ。」

「んにゃーーーん。」

「風呂入ったら一緒に寝よう。明日は家探しだぞ。武蔵は留守番だけどな。」

いつの間にか雨は上がり、空には星が瞬いていた。

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謝罪(*_ _)人ｺﾞﾒﾝﾅｻｲ☆昨日私のミスで、ずいぶん先の記事が掲載されておりました。ごめんなさいです。読んでしまわれた方、忘れてください（苦笑）以後、気をつけますｺﾞﾒﾝﾈﾟ+.((人д｀o)(o´д人))ﾟ+.ｺﾞﾒﾝﾈ




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