キミと空とネコと

キミと空とネコと24

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「今日もいい天気だぞ。武蔵。」

青い空がまぶしく春の気配を感じさせる陽気の中、このマンションで最後の朝食を取る。

「ほんと、最近身体の調子がいいな。」体重も少し増えてきた。

「おっと、もうすぐ9時になる。武蔵はあっちの部屋に行こうな。」

武蔵が怖がらないように人の見えない部屋に連れて行く。

9時になり業者の人たちは手際よく荷物を車へと運んで行く。

すべての荷物を積み、一度新しいマンションへ行き、大きな家具(といってもそんなにないけど・・・。)を配置してもらう。武蔵は背を低くして新しい部屋の探検に忙しい。

業者の人にお礼を言って支払いを済ませると、オレは前のマンションに戻る。

最後の点検と掃除をして不動産屋に鍵を返すために。

荷物の無い部屋はガランとして、今朝まで住んでいたとは思えないほどだ。

掃除を済ませた頃、不動産屋がやって来た。

ぐるりと部屋を見渡し忘れ物がないか確認してガスの元栓を締め、ブレーカーを落とす。『コウキばいばい。』心の中で呟く。

表札を取ると、室内を点検していた不動産屋に鍵を返す。

「キレイに使っていただいているので弁償するようなところはありませんね。じゃ、これで契約終了です。ありがとうございました。」

「こちらこそお世話になりました。」

不動産屋に挨拶して先にエレベーターに乗り込む。

もっと悲しくなるかと思ったが不思議と涙は出なかった。これでよかったんだとスッキリした気持ちだった。

エントランスにあるポストの表札も外し、となりの響夜のポストに手紙を入れる。

「傷を見られた事は許せないけど、優しくしてもらった事には感謝しています。ありがとうございました。」と響夜と雪夜さんの顔を浮かべながら心の中で挨拶する。

オレはマンションを出ると、駅に向かって歩く。通りの反対側を響夜が歩いていたことには気づかず、そのまま電車に乗って新しいマンションまで帰って来た。

「ただいま。武蔵。探検は終わったか?」

武蔵は疲れたのかソファーの上で丸くなって寝ている。ぐりぐりと頭をなでると大きなあくびをしてまた丸まる。

「この部屋が気に入ったか武蔵?これからも一緒だな。よろしく。」

オレは掃除をしつつ、荷物をほどいていく。

新しい部屋はオレと武蔵の匂いがなくて、まだなんだか自分の部屋じゃないみたいで落ち着かないけど、これから始まる生活にオレなりの色を付けていこうと思う。

人と関わるのは正直言ってまだ怖い。すぐに自分が変わるとも思えない。だけど、少しでも「フリ」じゃなく生きて行けるようになりたいとも思う。

「そうだ。バイトの面接の電話しないと。携帯の番号も変えなきゃな。」

久し振りに携帯の電源を入れると響夜と雪夜さんの着歴とメールの多さに苦笑する。

もう見る必要もないとメールを見る事もなくすべて削除した。

バイト先に電話すると今日の夕方6時に面接してくれるとの返事があり、それまで部屋の片付けと夕食の下準備をし携帯の番号を変えに行く。

新しい番号に登録する電話番号はない。これから登録していくんだ。新しいアドレスを入力していると、いい時間になり本屋へと急ぐ。

本屋へ入り、そこにいた店員に面接に来た事を告げるとエレベーターに乗って事務所へ案内されソファーで待つように言われて座る。

「なんか緊張してきた。」

履歴書をテーブルの上に出してしばらく待っているとガチャリとドアが開き、10センチはあろうかというピンヒールで颯爽と女の人が歩いてきてオレの前に立つ。

前下がりの真っ直ぐなボブスタイルの黒髪にふちなしの眼鏡。自分の美しさを知っているからこそのナチュラルメイクはこの女の人を最大限に美しく見せていた。隙の無いスーツ姿。女に興味の無いオレでも目が引きつけられる。顎に細くきれいな人差し指をのせてオレを見ている。

「いいわっ。キミ合格。最初に言っておくけど、うち社内恋愛禁止だから。」

その女の人は突然それだけを言うと向かいのソファーに長い足を組んで座った。

それが『TAKANOA書店 社長 高野 麗華』との出会いだった。

「えっ。合格って採用ってことでしょうか?」

「キミ、私の言った事聞いてなかったの?何度も言わせないで。合格って言ったのよ。採用するって事。私が決めたんだから誰にも文句は言わせないわ。祖父が始めた本屋だけど、今は私が社長なの。父と私で小さな本屋だったTAKANO書店をここまで大きくしたのよ。」

「そうなんですか。すいません。採用していただいてありがとうございます。社内恋愛はするつもりはないので大丈夫です。」

社内恋愛するにも同じ性癖の人がいるなんて奇跡に近いことだし、その人を好きになるとか、その人がオレを好きになる可能性は0%に近いものがあるし、そもそも恋愛をするつもりのないオレには関係のないことだ。

「うん。キミ声もいいわね。」

「えっ。声・・・ですか・・・?」

「そう。うちは店員を見てもらったらわかるけど、ビジュアル的にも厳しいの。」

そういえば、さっき案内してくれた人も整った顔をしていたし、店員はきらびやかな人もいた気がする。店の雰囲気も女性が多く華やかだったような気がする。

オレこんな店でやっていけるのか?ただでさえ人と関わるのが苦手なのに・・・。不安が胸をよぎる。

「そんなにおびえないで。取って食べたりしないわよ。それにここはホストクラブじゃないんだから、過剰な接客をしろっていうんじゃないわ。キミ本は好き?」

「はい。大好きです。歴史小説が特に好きです。」

「そう。作家では誰が?」

「好きな本は?」

好きな作家や本の話を夢中で話す。麗華さんは口を挟むことなく最後まで話を聞いてくれる。

「ふふっ。いい顔して話すのね。さっきまでの顔とは全然違うわ。いつもは無理してるの?」

「・・・。」いきなり当てられて言葉が出ない。どうしてわかるんだろう。

「何でわかるのかって顔してる。ふふっ。どれだけの人を見てきたと思うの?私、これでも人を見る目はあると思ってるの。まあ、結婚には失敗したけどね。」と舌を出して言う麗華さんに冷たいだけじゃなくて、とても人間性のある人なんだと思う。仕事は冷静に考えながらしているのだろう。普段は面白い人なのかもしれない。

「ここでは無理して笑わなくてもいいのよ。そんなことを私は求めて無いわ。プロとしての接客をして欲しいの。本を扱う専門員としてね。バイトだからなんて思わないでね。その分時給を出してるんだから。キミのことビジュアルで合格にしただけじゃないわ。キミなら出来ると思ったから合格にしたのよ。頑張ってね。期待してるわ。」

そう言いながらオレの履歴書に目を通す麗華さんに認めてもらえて正直に嬉しかった。ここを選んでよかったと思う。頑張ってスキルアップしていこう。

「はい。オレ頑張ります。」自然と笑顔になっていた。

初めて逢った人なのに麗華さんはオレの懐にするっと入ってきた。それが自然と受け入れられ心地よかった。女の人だからかなぁ。ちょっとしか話して無いけど、麗華さんはオレにとって嫌な人間ではないと感じた。

「うん。いい笑顔。私その顔好きだな。」そういうと麗華さんはチュッとオレの頬にキスをした。

「げっ・・・」あわてて麗華さんから離れるオレに麗華さんは笑って

「ふふっ。海人くん女には興味ない人でしょう。」と確信をついてくる。

「な・・・なんでわかるんですかっ?」オレは墓穴を掘っていた・・・。







うまく切ることが出来なくて中途半端でごめんなさい(*_ _)人
麗華さんキャラ、私好きなんです。百戦錬磨っぽい所がいい。海人にはいいお姉さんになるかも・・・。これからどう絡んでいくのかお楽しみに(*^_^*)



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~ Comment ~

こんばんわです 

頂いたコメのURLで飛んできてしまいましたw
『キミと空とネコ』一気読みしました♪ 雪夜、響夜、聖夜さんがいたー(≧∀≦)
自分を出せずフリをして生きている海人くんが切ないです。
けどやっと歩き出せたんかな。しかし元彼の別れの言葉がなんともリアルぽい感じがしました。結構この言葉は痛いですよね。後々引きずるのも無理ない(ノд`)
にゃんこの武蔵、可愛いです。今の海人くんにとって心許せるパートナーなんやろな。
タイトルも素敵ですが、“キミ”とは誰になるんでしょうか。今は元彼かもしれないけども。
雪夜さんか響夜さんか、それともまだ出会って無い聖夜さんなのか。
麗華さん? いやいやそれは無いですよね;
続きを楽しみにしておりますヽ(´ー`)ノ 他のお話も拝読させてもらいます~

Re: こんばんわです 

にゃーーーん(`・ω・´(。-_-。)ゝダキッ訪問:*:°・☆ヾ(δ_δ。)了└|力"├♪です✿

> 『キミと空とネコ』一気読みしました♪ 雪夜、響夜、聖夜さんがいたー(≧∀≦)

ねねっ。いたでしょ。( *´艸)( 艸`*)ププッ音夜さんも入りますか?名前的にはバッチリ(*^-゚)v

>しかし元彼の別れの言葉がなんともリアルぽい感じがしました。結構この言葉は痛いですよね。後々引きずるのも無理ない(ノд`)

まぁ、この話はリアル&創作なので実際の事柄もあるわけで・・・。ズキュンでそ。あのセリフ・・・。あれリアルです(苦笑)辛かったわー。あのセリフ書くの。実は・・・il||li (。≖ฺ‿ฺ≖ฺ) il||li

> タイトルも素敵ですが、“キミ”とは誰になるんでしょうか。今は元彼かもしれないけども。
> 雪夜さんか響夜さんか、それともまだ出会って無い聖夜さんなのか。
> 麗華さん? いやいやそれは無いですよね;


そうですね。誰にしようかな?なんつって♡゚・*:.。 (→ܫ◕ฺ人◕ฺฺܫ◕ฺ).。.:*・゚♡
麗華さんは海人の応援団長なんでないっつうか麗華さんにしたらBLにならないです(*≧m≦*)ププッ
『キミ』って響きが好きなんですね。でも、『キミ』にふさわしくない人がお相手だったら・・・。ちとタイトル失敗か?なんて思っちゃったりします。タイトルをステキだなんて音夜さんお上手(*・ω・*)ポッ音夜さんのも『キミ』がタイトルに入ってますよね(。・(ェ)・人ゝ(ェ)・。)

> 続きを楽しみにしておりますヽ(´ー`)ノ 他のお話も拝読させてもらいます~

ありがとです。頑張ります(*^-゚)vィェィ♪
音夜さんの「智と向井エロ王子」も(そんなタイトルじゃないよ。Only One「君に恋した理由」だよ)楽しみにしています。 又、お邪魔しに参りますよぉ☆♥(๑→ܫ←)♥ちゅき
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